文:INITIATIVE編集部
平成の30 年間、日本企業では管理職としての活躍や出産後の職場復帰などを通じ、キャリアを重ねる女性が増えてきました。そこで、パソナ総合研究所は今年4月、第5回PIフォーラム「これからの女性の働き方 ~新時代に向けて平成の変化を検証する~」を開催。女性活躍の先陣を歩んできたトップリーダーたちが令和時代の女性の働き方を議論しました。今回は前後編にわたり、フォーラムの内容をお届けします。
<登壇者>
秋山 咲恵 氏(株式会社サキコーポレーション ファウンダー)
川合 晶子 氏(株式会社松屋 取締役 上席執行役員 本店長)
長畑 久美子(株式会社パソナグループ 執行役員 女性活躍推進担当 兼 株式会社パソナフォスター 代表取締役長)
<モデレーター>
竹中平蔵(パソナ総合研究所 所長)
【後編はこちら】
働く女性2,000名アンケートから見えてきたもの(長畑久美子)
パソナグループ(女性活躍推進担当)とパソナ総研は、新しい時代に女性が望むキャリアについて、全国で約2,000名の女性就業者を対象に、20代・30~40代・50~60代の3グループに分けてアンケート調査を行いました。「理想と現実のギャップ」「会社への期待」「政府の施策」の3つの観点からアンケート結果の概要を紹介します。
「理想と現実のギャップ」については、「かなりギャップがある」「少しギャップがある」が約5割にのぼり、その原因は「収入・待遇が希望と異なる」(約50%)ことで、30~40代では「プライベートの時間が十分確保しづらい」(27.5%)こと、20代では「職場での人間関係に問題がある」(19.9%)ことがわかりました。
「会社への期待」については、すべての世代で「昇給・昇格」「仕事内容の充実」「良好な人間関係」がトップ3にランクされ、20代はとりわけ「休日・休暇の取りやすさ」への期待が高い結果となりました。
また、正社員総合職を対象に「管理職への意向」を聞いたところ、「絶対になりたい」「チャンスがあればなりたい」「どちらとも言えない」が20代で50.6%、30~40代で62.4%であり、50~60代(「自身が20代であれば」と仮定した質問)は71.4%でした。さらに、「管理職になりたくない」理由は、「大変そう」「責任が重くなるのが嫌」が多く、とりわけ20代は「残業時間が増える」ことでした。
「女性が管理職になるために必要なこと」については、30~40代・50~60代では「女性自身の意識」、20代では「男性社員や上司の結婚、出産、育児への認識・理解の促進」が多かったです。
政府の施策については、「産休育児休暇の拡大」「待機児童減少への取り組み」「幼児保育の無償化」など子育て関連が評価されていました。
また、既婚者を対象に「夫婦の働きかたについての考え」を聞いたところ、「夫も妻も外で働き、夫婦で家事もすべき」という回答がどの世代でも約7割にのぼり、消費税増税分は「保育所等の受け入れ数を増やす」「幼児保育無償化」「高等教育無償化」など子育て支援の施策に回すべきだという回答が多数を占めました。
さらに、「女性活躍の壁」については、「子育てへの理解・支援不足」「仕事と家庭の両立」や「社会の意識」という回答が多く、とりわけ50~60代の約3割が「介護への理解・支援不足」を上げていることが特徴的な結果となりました。
引き受けることで自らの可能性の扉を開く(秋山咲恵氏)
私は、男女雇用機会均等法が施行された1986年に総合職1期生として就活を経験しました。当時、女性総合職はいわば「腫物扱い」され、今でいうブラックな経験もしましたが、門戸が開いて機会を得たことでキャリアをスタートさせることができました。また、社会人1年目で結婚したこともあり、自分の単身赴任を経験し、結婚と仕事の両立に悩んだりもしました。
1994年には、技術者の夫とともに産業用検査ロボット・メーカーを創業しました。たった2人だけのゼロからの出発であり、合理的な役割分担として私が社長になりました。
幸いなことに、事業は急成長し、「女性×企業×製造業×グローバル」ということで注目を浴びることとなりました。2001年に発足した第1次小泉内閣では、「政府の審議会で女性の比率を上げる」ということで、首相の諮問機関である政府税制調査委員会委員を最年少で拝命し、それ以降、数々の政府の仕事に関わってきました。
一方、ビジネスでは2008年のリーマン・ショックの影響をまともに受けました。「市場がシュリンクする」という表現があるが、このとき私が見た景色は、「市場が蒸発して消えてなくなる」という景色でした。
どん底から脱出するためには、まずトップが腹を据えることだと考え、環境(生活)を変え、意識を変え、行動を変えました。過去にとらわれずに新しい挑戦を繰り返し、明るく生きることが運を呼び込むことだと知りました。そして、昨年(2018年)、創業25年の節目の年に社長を退任しました。
人は、好むと好まざるにかかわらず、時代の流れや時代の変化に大きな影響を受けます。今は管理職になりたくないと思っていても、もし時代の要請があって管理職に昇進するチャンスに恵まれたときは、与えられた役割を引き受けて一所懸命にその役割を果たすことに価値があると思います。そうすることが、自分自身が思っている以上の自らの可能性の扉を開くことにつながります。
人生100年時代になって、特に日本では、年をとっても、子どもを持っても、子育て中であっても、働く人が幅広く求められるようになっています。そして、どのような会社にいて、どのようなポジションで、どのような仕事をしていても、インターネットによって世界中にある情報に個人としてアクセスでき、個人として情報発信できます。
まさに、「個人の時代」の到来であり、一人一人が個人としてどうしたいかということが重要な時代になったと感じています。
女性活躍推進ではなく男女の活躍推進を(川合晶子氏)
日本の人口の半分以上は女性であり、2016年現在、雇用者全体に占める女性比率は44.2%です。しかし、従業員300人以上1000人未満の企業で見ると、課長級以上の管理職に占める比率は6.2%、役員に占める女性比率は8.2%に過ぎません。
そこで、2016年4月に「女性活躍推進法」が施行され、従業員301人以上の企業に、①女性活躍状況の把握・改善事項の分析、②「事業主行動計画」の策定・公表等推進、③女性の活躍に関する情報の公表が義務付けられました。
私のキャリアを振り返ると、仕事に対するモチベーションは、20代は「24時間働けますか」の「バリキャリ時代」、30代は子育てがメインでキャリアが停滞する「ノンキャリ時代」、40代は子育てとキャリアのバランスを取るのが難しく綱渡りだった「ママキャリ時代」、そして50代は自分のモチベーションよりも役職が上がるスピードのほうが速くなった「安倍キャリ時代」というように、かなり乱高下してきました。
企業にとっては、すべての年代に将来のリーダー候補生がいて、リーダーシップパイプラインが太く貫通していることが必要ですが、女性に関してはそうなっていないのが現状です。それを変えるためにはどうしたらいいでしょうか。
第一は、若いうちに責任ある仕事、難しい仕事を行うことです。企業としては、職場の「無意識のバイアス(偏見)」に気づいて、放置しないことが重要です。性別で役割分担に差を付けるのは、女性のリーダーシップパイプラインを目詰まりさせる大きな理由になるからです。
第二は、昇進と異動のオファーは断らないこと。チャンスは二度来ることはありません。一方、女性は自分自身の中に100%できる自信がない限り「はい」とは言わないことが多いので、企業は期待や理由をセットにしてオファーを出してほしいと思います。
これからの時代は、一部の特別の人がバリバリ働くのではなく、すべての人がその人らしく仕事を(家庭も)もちながら成長する時代です。女性活躍推進ではなく男女の活躍推進であり、「一億総活躍」の時代が到来したということです。
これからの男女にとって、最も貴重な資源は時間です。午後7時までに家に帰り、家事を半分シェアしてくれるパートナーが増えない限り、日本の女性は今の働きかたから脱却できません。残された問題は、雇用する側の意識変革であり、企業風土を変える覚悟が必要です。
【後編はこちら】
(2019年7月発行
パソナ総合研究所「PI Report Vo.4」より一部修正)