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INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

HR 2017.04.11 アメリカの人事制度の特徴とは? 5分でわかる日本との違い

文:INITIATIVE編集部

トランプ大統領による経済運営に注目が集まるアメリカ。移民政策の転換やTTP離脱などが、今後経済にどのような影響をもたらすのかはいまだ未知数と言われています。しかし、これまで常に新しいテクノロジーやイノベーションを創造し続け、また現在も世界最大の市場として成長を続けるアメリカに進出する日系企業の数は減少する気配がありません。そして、企業が海外進出を検討する上で押さえておくべきポイント、それはその国の人事制度です。今回はアメリカの人事制度の特徴や日本との違いについて解説します。



米国労働市場のトレンド


人事制度を概観する前に、最近の米国労働市場の状況を見てみましょう。
リーマンショック後の2010年に10%程度まで上昇したアメリカの失業率は、足元では5%を切るまでに改善しています。この数字はアメリカにおいては「完全雇用」に近い状態で、州によっては2%台で推移しているところもあります。さらに、非農業部門の雇用者数は2016年に約220万人増加したと言われています。

また、パソナグループの米国法人であるパソナN Aが、米国内の日系企業を対象に実施した調査(「2017年度在米日系企業における現地社員の給与・福利厚生に関する調査」)によると、過去1年で現地従業員を増やした企業の割合は36.9%、逆に減らした企業は14.8%でした。また今後1年間の見通しとして、「増える」と回答した企業は47.7%、「減る」と解答した企業は3.0%でした。
こうした数字からも、足元の米国経済の好調さと共に、企業が積極的に採用を行っていることが伺えます。

ただし、労働市場の環境が良いということは、すなわち企業にとっては人材採用のハードルが高いということに他なりません。そうした意味でも、企業は現地の人事システムを理解し、優秀な人材にとって魅力的で、なおかつ人材の能力を最大限引き出すことができる人事制度の構築が必要になります。

米国人事における採用と配置


日本とアメリカでは、人材採用と配置の基本的考え方が異なります。日本企業では毎年4月に新卒社員を採用し、入社してから配属を考えます。その後、適正を見ながら営業や管理部門などのジョブ・ローテーションを通じて人材を育成していくことが一般的です。

一方、新卒一括採用の概念すらないアメリカでは、採用した人材を中心に社内で配置を考える日本とは全く逆に、ポジションに応じて人材を採用します。そのため部門をまたいだ人事異動は少なく、経理で入社した場合は、ずっと経理の仕事をします。

ジョブ・ディスクリプション


職務を中心に採用を進めるアメリカでは、「ジョブ・ディスクリプション(JD、職務内容記述書)」の作成が重要です。人材を採用・配置するポジションについて、担当する職務内容や必要なスキルなどについて記述した書類です。

採用時にJDを提示して求める成果を明確にしないと、その後の人事考課においてその人の業務成果を評価すること自体が難しくなってしまいます。また、後述しますがその後の訴訟リスクなどにも関係してくるため、JDは必要項目を網羅し、詳細かつ具体的に作成する必要があります。

<JDの記載内容(例)>
職務名、所属部署、報告先上司、FLSAステータス(※後述)、職務内容、職務に必要な知識・技術・学歴・資格、業務目標、但し書き、従業員の署名 など



人材派遣の仕組み


人材の採用・活用手法の一つとして人材派遣の仕組みがありますが、その制度は日米で大きく異なります。

1つ目の違いは、派遣期間の制限の有無です。日本では労働者単位や事業所単位で派遣期間に制限がありますが、アメリカでは基本的に期間の制限はありません。企業にとっても働き手にとっても、日本に比べて自由度が高い仕組みと言えるでしょう。

2つ目は、面接の可否です。日本では保有スキルや経験をもとにその業務を遂行できるかを派遣会社が判断して派遣しますが、アメリカではひとつのポジションに履歴書を複数提示し、面接をして選考を行うのが一般的です。直接雇用の社員採用に近い形態と言えます。

3つ目は、二重派遣の可否です。日本では禁止されていますが、アメリカでは派遣会社から派遣された労働者を、別の会社に再度派遣することが可能です。

このように、アメリカにける人材派遣は、日本以上にフレキシブルな人材活用手法です。
アメリカに進出して間もない企業など、直接雇用の社員を数多く雇うことが経営の柔軟性を妨げてしまうケースでは、人材派遣の活用はひとつの有効な手段です。

EEO: Equal Employment Opportunities(雇用機会均等法)


日本にも男女雇用機会均等法をはじめ雇用上の差別を禁止する法律がありますが、アメリカでは「採用・昇給・昇進・異動・レイオフ・懲戒・解雇」など、雇用上のあらゆる決定において差別を禁止するEEOという規定があります。

全ての人事上の決定は、「能力・経験・勤務態度・勤務成績」など正当な職務上の理由によって実施する必要があります。EEOC(Equal Employment Opportunities Commission)という連邦政府直轄の行政機関が取り締まりを行っていますが、州によって法律や基準が異なるため、各州にも独自の機関が設置されています。

米国現地法人で採用面接をする際は、性別はもとより年齢や国籍、人種、家族構成に関する質問をすることは、例えば不採用とした人に「人種を理由に不採用にされた」と主張されるなど訴訟等に発展するリスクが高いため、細心の注意を払う必要があります。

FLSA: The Fair Labor Standards Act(公正労働基準法)


日本では聞きなれない米国人事における重要なキーワードに、「Exempt (エグゼンプト)」「Non-Exempt(ノンエグゼンプト)」というものがあります。
「Exempt」とは「免除する」という意味で、FLSA: The Fair Labor Standards Act(公正労働基準法)という法律によって定められている最低賃金や残業代などの規定が「免除」されます。

その従業員が「Exempt」に該当するか否かは職務内容と給与水準によって決まり、業務の実施場所や部下の人数、業務指示の内容なども判断材料になります。そしてあくまでも、その判断は雇用者(企業)ではなく、FLSAという法律によって決まる点には注意が必要です。

最近のアメリカにおける残業代訴訟で最も多いのが、「法的に正しくはNon-Exempt従業員である者を、誤ってExempt従業員として働かせていた」という「ミスクラシフィケーション」のケースです。場合によっては、最大で過去2年間遡って残業代などを支払う必要が生じます。
そうしたリスクを避けるためにも、業務に内容に基づいた詳細なJDを作成することや、Non-Exempt従業員についてはきちんとした業務時間管理を行うことなどが重要です。



任意雇用(At-Will)と雇用終了


アメリカにおける雇用には、いつ、いかなるときも、理由の有無にかかわらず雇用主も従業員も雇用を解消できるという「At-Will(任意の雇用)」の原則があります。
しかし、「At-Will」の一方で、訴訟も非常に多いのが現状です。特に、自主退職ではない会社都合による雇用終了は「不当解雇(契約不履行、報復的解雇、不誠実・不公正な解雇)」とみなされないように注意が必要です。

会社都合の雇用終了理由としては、「ビジネス上の理由」「不正行為・懲戒」「成績不良」があります。

・ビジネス上の理由
業務を縮小したり拠点を閉鎖したりする際、従業員に辞めていただかざるを得ないケースがあるかもしれません。そのような場合、明確な理由に基づいて戦略的に進めること、雇用終了後すぐに同じポジションで新規採用をしないことなどが肝要です。

・不正行為・懲戒
就業規則を定めていなければ、何をもって不正行為とするのか、何を懲戒対象とするのかなどが明確でなく、不当解雇とみなされる可能性があります。

・成績不良
JDを作成しておらず事前に明確な業務目標を伝えていなかったり、業績評価の記録を残していない場合、改善に向けたフィードバックを行っていなかった場合などは、何を持って「パフォーマンスが良くない」とするのかという点で訴訟に発展するケースがあります。

給与水準と諸手当の現状


日系企業と米系企業の給与データを比較すると、総務アシスタントは日系企業の方が高いのですが、会計担当や営業マネージャー、マーケティングマネージャー、ソフトウェアエンジニアなどは米系企業の方が高い水準にあります。一般的に、職位が高かったり、高い専門性を求められる職種の給与は、米系企業のほうが高い傾向にあるでしょう。

また、アメリカにおける報酬制度の考え方は基本的に職務給であり、そのポジションにおける能力を重視して決定されます。昇給も年功的な考え方ではなく、年に1回ないし2回程度行われる評価をもとに決定されます。
そのため、給与水準や昇給において、日本の考え方をそのまま適応すると、優秀な人材が採用しにくくなる恐れがあります。

さらに諸手当や社会保険にも違いがあります。アメリカでは通勤交通費が支給される会社は少なく、住宅補助も少ない傾向にあります。一方で、営業のコミッションが支給されるケースが多いです。

保険などの福利厚生も、きちんと現状を把握した上で制度を設計する必要があります。米国における福利厚生付与率としては、眼科保険や生命保険、401(k)は全米平均で6割前後、10名以下の小規模企業では3割~5割弱と決して高くはありません。
しかし、健康保険と歯科保険は小規模企業でも8割前後と高いため、米国に進出したばかりで規模が小さい会社であっても、可能な限り整備する必要があるでしょう。

まとめ


いかがでしたでしょうか。
今回、アメリカの人事の基本的な仕組みや考え方を、日本と比較しながら見てきました。

アメリカに限らず、日系企業が海外に進出する際は、その国の法律や各種制度、ビジネス慣習に基づいた人事制度の構築が求められます。同時に、日系企業の強みを発揮していくためには、日本型の人事システムの良さを上手く残しながら、その国の人事の仕組みと融合させていくことも重要です。

1984年に日系の人材サービス会社として最初に海外に進出したパソナグループは、現在、北米やアジアを中心に14カ国(地域)でサービスを展開しています。30年以上にわたり海外で培った人材活用のノウハウを活かし、日系企業の海外進出や現地での人材活用を支援しています。
アメリカをはじめ、新たな海外進出や海外での人材採用を検討されている企業は、是非パソナグループにご相談ください。

●パソナ グローバル事業部
http://www.pasona-global.com/gl/

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