文:INITIATIVE編集部
日本企業でも、グローバル化やダイバーシティ推進が進められ、様々な国籍の優秀な社員がイキイキと活躍している会社も増えてきました。一方で、外国籍社員の能力を活かしきれていなかったり、離職率が高いことに頭を悩ませている企業も少なくありません。そこで今回は、異文化コミュニケーションのプロフェッショナルである株式会社Tsunago 代表取締役CEO ジョン・リンチ氏に、日本企業が外国籍社員を活かすためのポイントを聞きました。
パソナが開催したグローバルセミナーで講演するリンチ氏(2016年12月)
●株式会社Tsunago「J-グローバル・インスティチュート」
http://jglobalinstitute.org/
日本企業の素晴らしさが外国人には伝わっていない
私は1990年に来日して以来、20年以上にわたり日本でビジネスをしていますが、日本企業には素晴らしい部分がたくさんあると感じています。「三方良し」の近江商人に代表されるように社会に貢献するという意識が高い企業も多いですし、組織のチームワークは世界一。商品やサービスの質は非常に高く、そして「お客様は神様」というカスタマーファーストの思想が根付いています。
しかし一方で、こうした日本企業の素晴らしさが外国籍人材には十分に伝わっていないと感じています。
そのギャップを埋めるのはコミュニケーションなのですが、外国人にとっては、日本独特の暗黙のコミュニケーションは非常に分かりくい。逆に、日本企業の良さをきちんと伝えることができれば、自社の求める外国籍人材が入社してくれて、高いモチベーションで働き、能力を存分に発揮してくれることでしょう。
そのために重要なポイントは、「オリエンテーションと研修」「キャリアパスの提示」「業務目標、業務マニュアルの明確化」の3つです。
オリエンテーションと研修
1つ目のポイントは、外国籍人材が働き始める前に、オリエンテーションや研修などを通じて、日本企業の文化のほか、組織や制度の仕組み、そしてなぜそれが必要なのかなどをきちんと説明しておくことです。
日本企業の文化として「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」「改善」「根回し」「チームワーク」などがありますが、日本人にとっては当たり前と思えることも、外国人は全く異なる考え方をします。
例えば「ホウレンソウ」。外国人にとって、報告・連絡のためとしてむやみにメールのCCに入れられたり、集中している時に声を掛けられることは「業務の邪魔」と感じることがあります。また、仕事の問題点や悩みを相談することは「自分の弱みを見せることであり、クビになってしまう」と考える人も少なくありません。
さらに、「成功したことを報告しないと昇進できない」と考える外国人にとっては、業務の「改善」のために自らの失敗事例を共有することなんてできません(笑)。
「チームワーク」の概念も、日本ではお互いに助け合うことですが、外国ではお互いが自分の仕事を100%の責任を持ってやること。
これだけの意識の違いがあるのです。
日本企業に勤める方に聞くと「ホウレンソウは大切だ」「改善が大事だ」と口を揃えて言いますし、私もそうした日本企業のビジネス文化の利点は理解しています。しかし、それらが“大事なこと”であるにもかかわらず、その価値を外国籍人材にきちんと伝えられていない会社が多い印象です。
入社前の説明会や、入社後のオリエンテーションや研修などの機会を使って、日本企業の文化やその利点を、じっくりと教える必要があります。
キャリアパスの提示
2つ目のポイントは、入社後のキャリアパスを明確に提示してあげることです。
優秀な外国籍人材が入社し、「近い将来、リーダーになりたい。そのための方法を教えて欲しい」と言われたとき、どれだけの日本企業できちんとした回答ができるでしょうか。例えばあなたの会社では、課長や部長になるために必要な資格や経験、キャリアステップなどを明確に提示できますか。
自分のキャリアのために履歴書を“魅力的”にしていきたいと考える外国籍人材にとって、「とりあえず10年間ほど頑張ってください。そうすれば部長になれるかもしれません。基準は任せてください!」は通用しません。
また、様々な部署をローテーションして人材を育成していくという人事制度も、「私はマーケティングを学んできたのに、なぜ営業に配属なのか」など戸惑いを感じる外国人は多いです。
しかし、ローテーション制を採用している企業にその理由を聞くと、「社内のバリューチェーンを理解するため」「視野を広げるため」「チームワークを身に付けるため」「部門最適ではなく全社最適を学ぶため」など非常に明確で合理的な答えが返ってきます。
このように、日本企業のマネジメントシステムやキャリアの描き方には素晴らしい価値があるということを、きちんと理解してもらうことが重要だと思います。
業務目標・マニュアルの明確化
3つ目のポイントは個人の業務目標と業務マニュアルを明確にすることです。
外国籍人材が日本企業に入社して最初に戸惑うのは職務記述書(JD:ジョブ・ディスクリプション)と、業務マニュアルが整備されていないことです。これがないと、業務の目標や評価基準、日々の業務の進め方が分からず、外国人にとっては暗闇の中で仕事をしている感覚になります。
欧米の企業ではJDが明確で、その業務内容をきちんとこなして、目標を達成できればボーナスがもらえます。一方で日本企業はJDが非常に曖昧で、自分の仕事だけではなく、周りの社員や他部署の仕事を手伝うことで評価されて昇進するケースも多々あります。
他社に比べて給与が低いことを理由に優秀な人材に辞められてしまうのは、ある意味で仕方がないことですが、JDが用意されていないことで何が評価されるのか分からず、暗闇の中で働くことに耐えられずに辞めてしまうのは非常にもったいないと思います。
また、JDやマニュアルを通じて、事前に業務内容や目標、業務のやり方を説明していれば、後で注意する権利があります。しかし、何の説明もしていないのに後になって注意をしたり文句を言うのは、不公平だと言われても仕方ありません。
さらに、阿吽の呼吸で現場のコミュニケーションが成り立っている企業では、日々の業務成果に対して言葉で褒めることを疎かにしてしまうケースもあります。心の中で高く評価した外国人の部下に、言葉で褒める代わりに新しい仕事や責任を与える(笑)。そうすると、外国人にとっては「せっかく頑張っているのに上司は褒めてくれず、追加の仕事を与えられる」と不満ばかりが溜まってしまいます。
業務目標や仕事の進め方を明確に提示し、それに沿って仕事をしてくれたらきちんと褒めること。日本人社員に対しても大切なことですが、外国籍社員に対しては特に意識する必要があります。
“ブラックボックス”問題を超えて
これまで、日本企業で外国籍人材を活かすポイントを説明してきました。3つのポイントに共通するのは“ブラックボックス”問題です。外国籍人材にとって、日本企業の文化や組織のあり方、仕事の進め方は、掴みどころの無い“ブラックボックス”なのです。
ビジネスの世界で大きく成功してきた国にアメリカと日本がありますが、それぞれのビジネス文化や組織のあり方は対照的です。日本はハイコンテキストな文化であり、「分かるだろう」が前提で、分からないところだけ説明しようとします。一方、ローコンテキストな文化の代表格であるアメリカでは「分からないだろう」が前提で、全部を説明しようとします。
世界的に見ればアメリカ企業も非常に極端なシステムと言えますが、日本と異なり明確に言葉で説明する文化があることで“グローバルスタンダード”になりました。さらに、欧米の有力ビジネススクールは押し並べてローコンテキストの文化であり、そこで学んだ人材が世界各国のビジネスリーダーとなることで、彼らと日本企業の文化的ギャップはますます広がってしまいます。
冒頭に申し上げたとおり、日本企業には素晴らしい強みがたくさんあります。“ブラックボックス”問題を克服し、優秀な外国籍人材に日本の企業文化やマネジメントシステムの利点をきちんと説明できるようになれば、日本経済はもう一度大きく発展すると信じています。
日本企業の素晴らしさを世界に広めていくことが、いまの私の夢なのです。
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