「女性活躍推進法」が2016年4月に施行されます。女性が活躍しやすい社会を目指して新たなルールが制定されました。労働者が301人以上の企業には行動計画の策定や届出などが義務付けられたため、準備に追われる企業の声も聞こえてきます。
1月22日、東京・大手町のパソナグループ本部では、社会保険労務士 菊地加奈子氏に登壇いただき「女性活躍推進法セミナー ~行動計画策定のポイントと認定書類の書き方~」が開催されました。今回は、セミナーの内容をベースに、春に向けて企業が対応すべきポイントについてお伝えします。 |
▲1月22日に行われた「女性活躍推進法セミナー」の様子
「女性活躍推進法」の概要とポイント
女性活躍推進法では3つの目標が掲げられています。
一つ目は、
「性別による固定的役割分担等を反映した職場環境が及ぼす影響への配慮」ということで、 “男性は営業職で女性は事務職”などというこれまでの考え方を少しずつ変えていきましょうということです。
二つ目は、
「職業生活と家庭生活との両立」で、ここが男女雇用機会均等法との一番の違いです。仕事か育児かではなく、両方を頑張ることができる環境を作っていこうということです。将来に向けて出生率を上げていきたいという政府の考えも反映されていると思います。
最後は、
「本人の意思が尊重されるべき」ということ。大学生を対象にしたあるアンケート調査では、「将来管理職を目指したいか」という問いに対して、女子大生の7割が「ノー」と答えたそうです。
管理職のイメージとして仕事と家庭生活を両立しながらでは「難しい」「自分には無理なのではないか」などと思っている女性が多いことの現れでしょう。
両立に対してもっと女性の意思が尊重されるようになると、そうした意識の部分も変わっていくのではと期待しています。
企業に求められる対応とは
改正法による制度の枠組みは以下の通りです。
①自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析
②状況把握・課題分析を踏まえた行動計画の策定・届出・公表(労働者への周知含む)
③女性の活躍に関する情報公表
④認定制度
⑤履行確保措置
このうち①~③は301人以上の大企業は義務、それ以下の規模の中小企業は努力義務となっています。届出と公表も含めて2016年4月1日までに行わなければなりません。これが発表されたのは昨年10月なので、現場は混乱しているのではないかと思います。
ちなみに、「301人以上」のカウント対象になる労働者は「常時雇用する労働者」とされています。1年以上の雇用が見込まれない労働者や学生アルバイトなどは対象外です。
ただし、先に述べた「状況把握・課題分析」や情報の公表などを行う際には、対象に入りますので注意が必要です。
行動計画策定をスムーズに進める方法
企業は行動計画策定に先立ち、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析を進めなければなりません。
項目としては全部で25項目もありますが、そのうち4つの「基礎項目」は各企業が必ず把握しなければならない項目です。その項目の中でも雇用管理区分(事務職や総合職、一般職など)ごとに把握が必要な項目や、派遣社員も含めて把握が必要な項目があるので、事前に確認しておきましょう。
スムーズに状況把握や課題分析を進めるための便利なツールとしては、厚生労働省が提供する「一般事業主行動計画策定支援マニュアル」に基づく「入力支援ツール」があります。
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「策定支援マニュアル」はコチラ(PDF)
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「入力支援ツール」のダウンロードはコチラ(Excel)
支援ツールの説明に沿って自社の数字を入れていくと、その結果によって課題のタイプ分析などが行えるようになります。
これはとても便利で使いやすいツールなので、是非活用してみてください。
行動計画策定時に注意する2つのポイント
ポイントは2つあります。
まず「残業時間」の考え方ですが、みなし労働時間制対象者や管理監督者、月の途中で入退社した者などは、残業時間の分析対象には含めません。
一方、パートタイム労働者や専門業務型裁量労働時間制対象者は対象に含みます。また、育児・介護短時間勤務者や短時間正社員はどちらでも可とされています。
次に、「役職者」の定義ですが、役員は会社法上の役員だけではなく、「職務の内容や責任の程度が役員に該当する者」となっています。
また、「管理職」とは、課長級以上(役員を除く)を指します。部署の構成人数だけではなく、職務内容や責任の程度が課長級であるかどうかで判断します。
分析結果の数値の目安はあるのか?
先ほど説明した「策定支援マニュアル」のほかに、「行動計画策定指針」における目安となる数値あります。また厚労省による優良企業の認定制度の「認定基準」も設けられています。
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「行動計画策定指針」はコチラ
項目にもよりますが、大まかには「策定支援マニュアル」<「行動策定計画指針」<「認定基準」の順に、目安となる数値のハードルは高くなっています。自社の取り組み状況によって、目標を定めたらよいと思います。
優良企業認定を受けた後の落とし穴
優良企業認定を受けることは、自社のブランドイメージの向上や、新卒・中途採用の候補者へのアピールに繋がると思います。
ただし、認定は取り消しとなることもあります。あまり認識されていないのですが、関連法案に違反する重要な事実が発生したとき(労働局から勧告を受けたとき)は認定が取り消されます。
例えば、育児休業後の降格やマタニティーハラスメント(男女雇用機会均等法)、育児・介護休業の取得・復帰の拒否(育児介護休業法)、妊娠中の職務軽減請求拒否(労働基準法)、雇用期間が5年を経過した後の無期転換拒否(パートタイム労働法)なども認定取り消しの対象となることがあります。
マタハラ訴訟として知られる「広島中央保険協同組合事件」の事例などを見ていても思うのですが、コミュニケーションのミスや会社側の安易な対応によって、せっかく受けた認定を取り消されてしまうのはもったいないですよね。
もちろん、優良企業認定は取ることが目的ではありません。
何よりも、しっかりと自社の課題を分析して、策定した行動計画に沿って改善していくことが、何より重要であることは忘れないでいただきたいです。
数字だけにこだわらず本質を見失わないことが大切
北欧諸国は女性が活躍しているイメージが強いと思うのですが、ノルウェーに関して気になる記事を読みました。
ノルウェーでは2003年の会社法改正により、上場企業の取締役会における女性割合を40%以上にすることが義務付けられました。
しかしその後、対象となる企業の株価が大場に下落してしまったのです。数年間で対象企業の女性役員比率は10%増加しましたが、時価総額は12.4%下落しました。
これは、数値目標の達成だけに注力し、本質を忘れてはいけないということへの示唆に富んだ事例ではないでしょうか。
職務や能力によってではなく、数を増やすためだけに女性を管理職に引き上げても、上手くいかないということです。
準備期間が4月までということで焦っている会社も多いとは思いますが、女性活躍推進法をきっかけにして、各社で女性の能力を如何に活かしていくかについて考えることが大切だと思います。
各社が長期的な視点で女性活躍や企業経営のあり方を見つめ直すことが、本当の意味での女性活躍推進に繋がるのではないでしょうか。
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社会保険労務士 菊地加奈子氏
特定社会保険労務士 菊地加奈子事務所 代表、株式会社ワーク・イノベーション 代表取締役、女性活躍推進コンサルタント、5児の母。「人が輝き、企業がより強くなる人事制度、就業規則づくり」をモットーに、中小から大手まで様々な企業の人事・労務顧問を勤める。また、女性活躍推進コンサルタントとして、全国各地の女性活躍に課題を抱える企業向けに講演・研修やコンサルティング活動に従事。http://fairy-k.jp/ |