文:INITIATIVE編集部
平成の30 年間、日本企業では管理職としての活躍や出産後の職場復帰などを通じ、キャリアを重ねる女性が増えてきました。そこで、パソナ総合研究所は今年4月、第5回PIフォーラム「これからの女性の働き方 ~新時代に向けて平成の変化を検証する~」を開催。女性活躍の先陣を歩んできたトップリーダーたちが令和時代の女性の働き方を議論しました。今回は
【前編】に引き続き、フォーラム後半のパネルディスカッションの様子をお届けします。
<登壇者>
秋山 咲恵 氏(株式会社サキコーポレーション ファウンダー)
川合 晶子 氏(株式会社松屋 取締役 上席執行役員 本店長)
長畑 久美子 (株式会社パソナグループ 執行役員 女性活躍推進担当 兼 株式会社パソナフォスター 代表取締役長)
<モデレーター>
竹中平蔵(パソナ総合研究所所長)
【前編はこちら】
アンケート調査から見える女性が背負うもの
竹中 男性が外で働いて、女性が家庭を守るという夫婦間(男女間)の分業体制は、産業革命以降はっきりと出てきたといってもいいかもしれません。それまでは、家内制手工業や農業が中心で、男女が同じように働いていたわけですが、工場設備ができ、主に男性が工場で働くようになったということです。その後、長い時間をかけて、特に北欧諸国を中心に、女性が社会的に活躍するようになり、日本も正規社員・高給料というシステムが崩れるなかで、「男性が働き、女性が家を守る」という社会システムを変えなければならないようになったというのが現在の状況だと思います。
そこでまず、パソナ総研のアンケート調査についての印象をうかがいたい。
秋山 アンケートの中で「活躍の障害」として、上司、会社、家族など周りの理解が足りないことをあげた20代が多かったことと、同じ20代の約7割が「経済的な将来不安」をあげていたことが印象的でした。
川合 若い世代が、仕事のやりがいとか自分の生きがいではなく、将来の生活が不安だと考えていることに、私も衝撃を受けました。働き続ける理由が、「家計を守るため」というのはちょっと寂しい気がします。
長畑 これから少子化の中で子どもを持ち、両親の介護の心配などもあって、自分たちの肩に背負っているものが大きいと感じているので、自分のプライベートの時間を生かしたいとか、自分らしさを見せていかないとしんどくなると考えているように思いました。
「アファーマティブ・アクション」のあり方
竹中 ところで、「男女共同参画」や「女性の活躍」については、基本的に反対する人はほとんどいませんが、なぜか、その実現は遅々としている。特に男性の問題意識を変えることは必要だとは思いますが、政府・企業・個人でそれぞれ変えなければいけないことがあります。
秋山 先ほど、私は「個人の時代」というキーワードを出させていただきましたが、表現を多少変えると、それは、「価値観の多様性(ダイバーシティ)の時代」だと思います。例えば、若い世代の人たちの間では家事の分担についてほとんど抵抗がない男性が増えています。結婚のスタイルにしても、事実婚や週末婚、あるいは、専業主夫もいるということで、自分たちで合意ができればいろいろな選択肢がありうる時代になったということです。
ただ、問題は、税金や年金、あるいは社会保険などの制度が追いついていないことで、価値観の多様性を立法府がまず理解して、社会の変化に合わせて法律を変えていくことが必要だと思います。
竹中 おっしゃる通りですが、現実問題として政策は遅々として進んでいません。実は、政府の中では女性の登用は意外と進んでいて、女性の局長や次官もそれほど珍しいことではなくなってきました。そこであえてお聞きしたいのですが、さらなる女性登用のために、「アファーマティブ・アクション」(積極的優遇策)をとる必要があると思われますか。
川合 結論から申し上げると、数の目標を立てるというようなポジティブ・アクションをとったほうがいいと思います。女性登用が増えてきているとはいっても、例えば、ビジネスの意思決定の場にいる女性の割合は圧倒的に少ないからです。「男性に対する差別だ」という指摘もありますが、これまで何百年も女性が差別されてきたわけですから、この先100年女性が優遇されてもまったく何の問題もないという考え方もあります。
秋山 私も、基本的には、アファーマティブ・アクションにはポジティブです。なぜならば、いまの日本が置かれている状況を見ると、労働力も足りないし、行うべきことはたくさんあるのに、それができる人は少ないからです。今いる人材を活用していくための手段の一つであり、制度も含めて社会を変えていく原動力にするためのアファーマティブ・アクションはあってもいいと思います。
竹中 アファーマティブ・アクションにもいろいろありますが、具体的にはどのようなことをすべきだと思われますか。
秋山 大事なことは、私たちの世代が多様な価値観に対して寛容であるということなので、いろいろな制度をつくったり、企業の意思決定をしたり、組織で何か決めたりするポジションに、女性や若い人たちが参画して、決定したり変えたりできるようにするためのアファーマティブ・アクションだと思います。そして、その際、具体的な数値目標を持つことだと思います。
川合 私も賛成です。たとえば、「働き方改革法案」が施行されて、有給休暇を何日取らせなくてはいけないなど具体的な数値目標が出たとき、それに対するトップの受け止めかたや意識はかない高いものでした。民間企業は常に評判を意識し、罰則があるとか社名が公表されることにかなり敏感に反応するので、国は法律としてのハードルをもう少し上げればいいと思います。女性もしかり、年齢もしかり、LGBTもしかりで、決めてしまえば民間企業はその中で利益を出し社会貢献できるようちゃんとやります。
女性の働き方の未来
竹中 女性の働きかたの未来、女性活躍の未来をどのように展望しているのか、お伺いしたいと思います。
秋山 私はポジティブで、経済状況が悪くなって仕事に就けない人がたくさんいるという状況でなければ、基本的には人材は求められると思います。将来を想像すると、実はこれからの働く選択肢は、会社勤めをしていても副業もでき、個人事業主もあれば、起業もできる。これからは、特に女性にとっては、選択肢が増えるという意味でポジティブな展開があると思っています。
川合 私も基本的に楽観主義者で、あまり悲観はしていません。女性の意識も、少しずつ変わっていくでしょうし、日本人は、それほど簡単にへこたれる民族でもないので、本当に困ったことがあっても、それを何とかするような仕組みができると思います。若い世代はフラットで柔軟です。問題はわれわれの年ごろの人たちの意識であり、そこをきちんと変えていければ、先は明るいと思っています。
長畑 私も同じで、「人間関係を気にしている」とはいうものの、若い世代は瞬発力もあり、これからの働きかたの中でテレワークや時短などあるなかでも、そういうものに溶け込んでいけると思います。それを、私たち世代が認めていきながら取り込んでいければ、いろいろな働きかたができ、起業ができたりするので、経済も良くなり、男女ともに活躍をする場もできてくると思います。
竹中 最近の日本の成功事例の一つとして、コーポレートガバナンスに関する「コンプライ・オア・エクスプレイン」という考えかたがあります。例えば、社外取締役を最低2名入れるということが、法律の義務ではないけれども、ガイドラインとして東証から示されましたが、「仮にこれを守らないのであるならば、それなりの理由があるのだろうから、それを説明してください」というのが「コンプライ・オア・エクスプレイン」ということです。このやりかたを「男女の雇用平等問題」についても取り入れるというのが、一つの工夫としてありうると思っています。
いずれにしても、中間管理職を含めた「トップ」の思いや行動は重要で、「アベノミクス」や「ウィメノミクス」という言葉を、安倍総理が言うだけで、実は環境はかなり変化していることが何よりの証拠です。そういう一種の社会ムーブメントみたいなものをぜひ起こしていただきたいと思います。ありがとうございました。
(2019年7月発行
パソナ総合研究所「PI Report Vo.4」より一部修正)