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HR 2019.03.11 複業時代の雇用管理と就業規則のあり方

文:渡邊岳法律事務所 弁護士 加藤純子氏

2018年1月、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が厚生労働省により発表されました。企業がこのガイドラインを踏まえた対応を行う際のポイントなどを整理してお伝えします。

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」に対する企業の反応とは?


本ガイドラインにおいては、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である、という考え方が示されました。また、モデル就業規則も、その方向で改定されています。

本ガイドラインは義務ではないため、今すぐに対応しなければならないということはありません。また今のところ、制定後に急激に対応が進んだという印象も持っていません。しかし、数年単位のビジョンの中で、対応策を視野に入れる企業は増えてきていると感じられます。

いわゆる伝統的な日本の大企業の、特に終身雇用を前提とした正社員については、労使ともに、帰属する会社にのみ労務提供することが当たり前で、副業・兼業をするという意識自体が低く、兼業は家業の手伝いや大学の研究等に参加し報酬を得るなどの一部の例外に限られていたと思われます。一方で、小売業や接客、介護などの現場では人手不足という課題が差し迫っており、人材確保のために他社で就業中の人材も採用するなど、実質的に兼業を認めている企業も既に多く存在しています。



これまで、厚生労働省のモデル就業規則が兼業を原則禁止して許可制にしてきたことと、兼業の自由化が進まないことの関連性が議論されることもありました。しかし、そもそも、これまでの企業の実態や社会的通念と兼業を原則禁止とするモデル就業規則との間には、大きなズレはなかったのではないかと思われます。


ただ、従前から裁判例では兼業を禁止する就業規則があっても、会社の勤務時間以外の使い方は労働者の自由であり、労務提供への支障や秘密漏洩・名誉信用の失墜等が生じるときに限り例外的に禁止できる、というガイドラインと同様の立場が取られていました。そのため、法的な枠組みが変わったわけではないものの、厚生労働省のモデル就業規則が「兼業は原則自由です」という方向に変わり、ガイドラインも出されたことで、労使双方に「そうなんだ」という気づきを与えるインパクトはあったのではないでしょうか。今後は原則自由という理解の下で、兼業に関する様々な議論がなされていくと思います。

ガイドライン以外に、副業・兼業を取り巻く変化


前述の人材不足のほかに、高齢化の観点があります。現在、65歳までの雇用が義務付けられ、定年の引き上げや65歳までの継続雇用制度の導入が進んでおり、将来的には70歳までの義務化も検討されています。そうなると、業態・企業によっては従来どおりの週5日・一日8時間・週40時間労働に見合う賃金を維持できる職場を確保できないケースが出てくるでしょう。例えば1社では週3日勤務しか用意できない場合、雇用者の生活を支えるという面から、副業・兼業を解禁することも考えられます。


また、情報通信技術の発達も影響を及ぼすと思われます。すなわち、従前であれば出社して行わなければならなかった業務が、在宅でできるようになったことに加え、副業をインターネット上のマッチングサイトなどを利用して探すことも容易になり、労働者側にとってハードルが下がっている面はあるのではないでしょうか。いわゆるごく普通の日本企業で働く一般的なビジネスパーソンまでは、まだ議論が及んでいないという印象もありますが、副業・兼業の自由化に向けたニーズは増えていくのではないかと思います。

副業・兼業を解禁する際、ハードルになること


多くの日本企業が副業・兼業を躊躇する理由として「過重労働」と「秘密漏洩」の二つの問題があります。

例えば、製造業の正社員が、収入の獲得を目的としてコンビニでアルバイトをするというような場合は、主に労働時間が問題となります。労働基準法においては、事業所が違っても労働時間は通算されるという規定があり、本業の会社と兼業先の会社の労働時間は通算されます。

労基法上原則1日8時間・週40時間を超えて働いた部分から割増賃金が発生しますが、これは通算された時間を前提に考える必要があり、現状、所定労働時間が8時間を超えることとなる雇用契約を締結した会社に割増の支払い義務が発生すると解されます。例えば、本業の所定労働時間が1日8時間の労働者を、兼業先が所定労働時間3時間で雇い入れた場合、兼業先での就労の開始時間から通算すると既に8時間を超えるため、兼業先は3時間すべてにつき時間外の割増賃金を支払わなければなりません。
また、所定労働時間の組み合わせと時間外労働時間数によっては、最初に雇用契約を締結した側でも、兼業していない場合に比べ、多くの割増賃金を支払わなければならないケースもあります。

この点の考え方が複雑であり、また自社以外の要素も含まれるため管理は非常に難しいのですが、怠ると労働基準法違反のリスクがあるので注意が必要です




 一方、これまでの自分のスキルやキャリアを活かしながら兼業したい場合は、仕事の中身が本業と競合しないか確認が必要です。本業の顧客を奪取しないことや、本業の開発情報を提供しないこと等、まずは最低限の確認をすることが基本です。逆に、兼業先で知り得た秘密を本業の業務に使わないことも重要です。そのため今後は、兼業を許可する際に秘密保持の誓約を確認し直したり、必要な書式を整えるなどのマニュアル化も必要になるかもしれません。

なお、上述の労働時間の通算の問題など、企業が兼業を認めるうえで支障となる事項については、政府において法改正を含め検討がなされている部分もあり、成り行きには注目しておく必要があります。

副業・兼業を許可する際の手続きはどう整備したらよいか


今後大切になるのは、各社の業態に応じて、就業規則などで許可の基準を決めていくことです。その際、社員から情報を聞き取るための申請書フォーマットを用意するのも一つの方法です。その中で副業・兼業の勤務先、仕事内容、労働時間などを記入してもらい、会社側が可否を判断するといった手続きが考えられます。とはいえ、労働者の申告だけで正しい状況が把握できるとは限らないため、兼業先の労働契約書や労働条件明示書を添付資料として提出してもらうという対応も検討の余地があるでしょう。過剰にプライバシーに立ち入ってはなりませんが、労働時間や労働契約の内容を知ることは、本業側の労働管理や安全配慮、あるいは機密漏洩の問題にも関与してくるため、従業員に対してそこまでは要求してもよいと思います。


また、許可した時点では想定していない事態が、事後的に生じることも考えられます。したがって、許可した後も、定期的にあるいは申請時から変化があった場合の報告義務を課したり、本来許可されるべきでない兼業だった場合や、兼業先で自社の信頼を失墜させるような事態が起きた場合に対応するために、許可の取消に関する規定や、懲戒処分等の処罰規定の整備をしておくことも必要かもしれません。


今後、人手不足を解消し、高い能力を持つ人材を確保するためにも、柔軟に副業・兼業に対応しなければならない業態・企業は確実に存在します。本稿で言及した様々な点をきちんと検討し、確実に実行することが、今後の企業経営において重要な要素になってくると考えられます。

 
(2019年1月発行「HR VISION Vol.20」より一部改変)

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