文:INITIATIVE編集部
地方創生の本質は、地方に持続可能な夢のある産業を創ること。パソナグループは「人材誘致」をコンセプトに地方創生事業に取り組んでおり、兵庫県淡路島で廃校となった小学校をリノベーションした
「のじまスコーラ」は、地元の方と連携しながらレストランやマルシェなどを運営することで、島内外の方に愛される観光スポットのひとつになりました。今回は、シェアリングエコノミーが地方経済にもたらす影響や、パソナグループが2017年7月に淡路島にオープンした県立淡路島公園アニメパーク
「ニジゲンノモリ」の取り組みなどをご紹介します。
信頼に基づく「共助経済」がチャンスを創る
日本の地域には、眠っている様々な「遊休資産」があります。シャッター商店街やユニークなスペースなどの場所、数多くの世帯が保有している自家用車をはじめとしたモノ、それぞれの人が育んできたスキルなどは、見過ごされがちですが地域固有の資産です。
いま、それらを観光資源として活用し、「シェア」を通じて新しい体験を提供する取り組みが注目を集めています。
現代の日本社会は地域におけるコミュニケーションが希薄になり、ストレスフルな環境下で仕事や生活をする人が少なくありません。モノの貸し借りをする「シェア」が広がることで、お互いに気持ちよくコミュニケーションを図り、個人間の信頼の醸成につながる可能性は大いにあります。
近年、こうした信頼関係に基づく「シェアリングエコノミー」が世界を席巻しており、2020年には全世界で330億ドル規模の市場に成長するとみられています。日本でも今後さらなる成長が見込まれますが、現時点では「誰でも参入できる、敷居の低いレンタルビジネス」と捉える傾向が強いのが現状です。
パソナグループではその壁を越えて、お互いに何かを提供し、何かを受け取るやりとりの中で生まれる「共助経済」を実現するための取り組みに力を入れています。
遊休資産の提供者は新たな収入源を得ることができ、利用者は新しい体験・経験をすることができる。この仕組みを確立できれば、特に地方において、大きなチャンスを生み出せると考えられます。
「イベント民泊事業」が伝統文化を救う
「共助経済」実現に向けた取り組みの一例として、徳島市の「イベント民泊事業」があります。
徳島市で毎年8月に開催される「阿波おどり」は、日本でも有数の伝統と知名度を誇り、祭りが開催される4日間で約120万人を動員する非常に大きなイベントです。しかし、宿泊施設の不足のため多くの来場者が市内に泊まることができず、近隣自治体のホテルに泊まったり、日帰りせざるを得ない状況にありました。
そうした状況を解決するため、徳島市はシェアリングエコノミーを活用し、市民参加でお互いに助け合うという方法をとりました。
阿波おどり期間に「イベント民泊事業」を実施し、事務局を運営したパソナが、観光客向けに自宅の空き部屋などを提供してもらえるよう市民に呼びかけると共に、事前に市内6カ所で説明会を開催し、書類審査を経て自宅提供者を決定しました。またイベント本番に向けて、提供者となった方々に向けてAirbnbなどのシェアリングサービスへの登録方法や、実際に観光客を自宅に招く際の対応方法などに関する研修を実施したほか、宿泊希望者の募集や、参加者への事後アンケート調査を行いました。
さらにパソナは、これらの業務に加えて、シェアリングプラットフォーム企業やシェアリングサービスに取り組む地域団体・ホストと連携し、阿波おどり観光客に向けて、ホームシェアだけではなく「スペースシェア」や「駐車場シェア」「カーシェア」などのサービスにも取り組みました。
こうして、阿波おどりの期間中、徳島市内ではたくさんの方々が「共助経済」を体験しました。そこでは、市民や観光客が一体となり、一緒にイベントを盛り上げて伝統を継続していこうというムーブメントが生まれたと言えるでしょう。
また、一度「共助経済」を経験すれば、その後も継続して自宅をAirbnbに登録したり、他にも貸し出せる「モノ」や提供できる「スキル」を見つけて活用する方も増えると考えられます。
それらが地域で暮らす方々に新たな収入を生み出すと共に、観光客に対する「おもてなし」の文化を醸成し、人と人の新しい出会いややりがいに繋がっていく。そして、阿波おどりをきっかけに顕在化した地域の課題が、市を変革するチャンスになっていく。パソナグループはこれからも、そうしたダイナミックな変化を生み出すべく、地域をサポートしていきたいと考えています。
誰もが参加できるからこそ、まずは小さく始めてみる
この徳島市の例は、他の様々な自治体や企業で応用が可能です。
日本では「プロフェッショナルでなければサービスを提供すべきではない」「スキルに自信のない人はサービス提供者になれない」という認識を持つ人が多く、それが起業のハードルにもなっています。しかし「共助経済」の考え方が浸透すれば、信頼関係の中で自分の持っている可能性や創造性を最大限発揮できる機会が増えていくはずです。
まずは軽い気持ちで始めてみる。難しそうならすぐに辞められる。そうした「軽さ」が社会に仕組みとして取り込まれていくことは、意義のあることではないでしょうか。
今後、少子高齢化に関連する課題解決のためにも「共助経済」の視点は重要です。例えば、長いキャリアの中で様々なスキルや経験を培ってきたシニア人材がセカンドライフを送る際には、「シェアリングワーク」がひとつの選択肢となるでしょう。それは、パソナグループが目指す「企業依存社会から個人自立社会への転換」という新しい社会のあり方を実践する方法とも言えます。
また、いきなり大規模なシェアの仕組みを導入することは難しくても、徳島市のように期間限定で始めることでノウハウを蓄積し、課題点を解決しながら少しずつ規模を拡大していく手法も有効です。例えば、日本に多くの観光客が訪れている現状を踏まえて、外国人観光客に特化した地域独自のシェアリングサービスを開発することもできるでしょう。
さらに、こうした取り組みは自治体だけでなく企業でも有効です。ハーバード大学の同期会名簿から始まったFacebookがアイビーリーグに広がり、その後、他の大学も含めた招待制になり、最終的には世界中に広まったことを考えれば、クローズドなコミュニティからスタートすることは有効な手段であると言えます。
パソナグループではこれからも、「共助経済」を実践するための様々な取り組みを行い、そこから未来の新しい仕組みやサービスを生み出すことを目指してまいります。
遊休資産や自然環境を活かした地方創生
パソナグループは2008年から、少子高齢化や人口減少に直面する兵庫県淡路島で自治体や地元関係者と連携し、様々な人材が集う「人材誘致」による地域活性事業に取り組んできました。
2012年には廃校という地域の遊休資産を再生し、「食・農・学・芸」をコンセプトにした地域活性化拠点
「のじまスコーラ」を開設。地域の方々の交流の場として様々なイベントを開催しているほか、本格的なレストランやカフェ、地元野菜を販売するマルシェなどを運営し、今では姉妹店の
「ミエレ」とあわせて、年間で約24万人が訪れる新しい観光スポットとなっています。
また2016年には、「日本の夕陽100選」に選ばれた瀬戸内海を臨む夕陽という地域資源を活かして、海沿いに100メートルを超えるウッドデッキを設置したビーチテラスレストラン
「クラフトサーカス」をオープン。淡路島の食材を使用した新鮮な料理と、世界各国の雑貨や伝統工芸品などのお買い物を楽しめるリゾート空間として人気を集めています。
そして2017年の夏、淡路島の自然資源を活かした新たな地域活性事業がスタートしました。
パソナグループは、兵庫県の「県立淡路島公園における民間事業の企画提案」の公募に「淡路マンガ・アニメアイランド事業」を提案し、2013年から県と共に事業企画を進めてきました。そして、ついに今年の7月、淡路島の自然とマンガ・アニメ等の2次元コンテンツ、メディアアートを融合させた日本最大級の自然体験型エンターテイメント施設、アニメパーク
「ニジゲンノモリ」がオープンしたのです。
「ニジゲンノモリ」では、夜の時間に体験できる「ナイトウォーク火の鳥」を開設し、手塚治虫氏原作の「火の鳥」をテーマに公園内の自然環境をプロジェクションマッピング等による光と音で演出、来場者は火の鳥のストーリーを追いながら、約1.2kmの幻想的な世界を体験することができます。
◆ニジゲンノモリ「ナイトウォーク火の鳥」CM(Youtube)
また、人気アニメ「クレヨンしんちゃん」を題材にした「クレヨンしんちゃんアドベンチャーパーク」では、巨大水鉄砲をくぐり抜けて滑空する水上ジップラインや、最大高さ約8m の本格的なアスレチックコース等の体験アトラクションが楽しめます。
◆ニジゲンノモリ「クレヨンしんちゃんアドベンチャーパーク」CM(Youtube)
パソナグループは、『ニジゲンノモリ』を通じて淡路島の魅力を国内外にさらに発信することにより、「のじまスコーラ」「クラフトサーカス」「ミエレ」と共に、地域経済の持続的な発展と就労機会の創造を目指してまいります。
(2017年7月発行「HR VISION Vol.17」より、一部改変)