働き方改革に注目が集まるなか、企業は働く一人ひとりの才能・能力を最大限引き出し、業務成果を上げる様々な仕組みづくりに取り組んでいます。今回は、パソナが7月に開催したセミナー『~ WIIP ~ Work Innovation to Intellectual Power 知的生産性向上と働き方改革』にご登壇いただいた株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティ 代表取締役 坂本裕司氏に、知的生産性向上を目的にした働き方改革のヒントを伺いました。
●株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティ 代表取締役 坂本裕司氏
1996年鐘紡株式会社入社。2001年MBA(経営学修士)取得。独立系コンサルティング会社を経て、2003年マネジメント系コンサルティング会社;取締役、同年ISPI(international society for performance improvement;ナレッジワーカー・ホワイトカラー生産性向上研究団体;USA)Japan Chapter;President就任。2012年株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティを設立し代表取締役就任。ナレッジワーカー・ホワイトカラーの生産性向上に関するマネジメント・コンサルティング活動を国内・欧米・アジアを中心に展開。
「創造的業務」とは何か
企業担当者の皆さんは、「働き方改革」のゴールをどのように設定しているでしょうか? 労働時間の短縮は働き方改革のプロローグに過ぎないのですが、世の中の動きは、これがゴールになっている現状が多々顕在しております。
これからの企業や組織において、労働集約的な業務における“クオンティティー(quantity:量)での競争優位性”は下がり、知識労働的な業務における“クオリティー(quality:質)での競争優位性”が高くなっていきます。
労働集約的な業務に関しては、棚卸しを行いマニュアル化やIT化が進んでいます。一方で、知識労働的な業務に関しては、その重要性が叫ばれる傍ら、知的生産性をどう測るのか、マネジメントはどうするか、そもそもどんな業務やテーマが知識労働にあたるのか、といった基本的な部分がイメージしにくい、という実態があります。
まずは「知識労働的な業務」について整理してみましょう。
私がコーディネーターを務めて推進してきた研究会(主催:一般社団法人日本能率協会 KAIKAプロジェクト室)の活動報告書『創造型組織へ~これからの生産性とは~』では、知識労働的な業務を「創造的業務」と名づけ、「定型的業務」と対比することで定義付けています。
創造的業務 |
定型的業務 |
非定型 |
ルーチン |
知的生産 |
労働集約 |
クリエイティブ
|
運用 |
企画 |
維持管理 |
マニュアル化しにくい |
ニュアル化しやすい |
(出典:一般社団法人日本能率協会『創造型組織へ~これからの生産性とは~』)
上記のように、創造的業務は進め方、手段、判断が個人に任されているが故に、成果に特化した業務といえます。そのため、知恵や経験によって成果のレベルが異なり、標準化が難しいともいえます。同じプロセスを踏んだからといって、同じ成果が創出されるとも限りません。
この研究会では、社会人1,000人へ「創造的業務」に対する意識調査も行いました。特徴としては、創造的業務に従事する者は担当業務への誇りを持ち、組織に対しても愛着の度合いが高くなる、という結果がでました。
(出典:一般社団法人日本能率協会『創造型組織へ~これからの生産性とは~』)
また、「会社の部門や方針を理解しているか?」「会社の業績を意識しているか?」という質問に対しても、創造的業務に従事している人の方がそうでない人より肯定的な回答が多く、創造的業務に従事していることが、会社の経営状況を自分自身の課題と捉え、責任感を持って主体的に取り組む姿勢につながっているのではないか、と考えられます。
全員が創造的業務に取り組めば、仕事に対し主体性を持って取り組むことが出来るかというと、決してそうではありません。創造的業務と創造的業務以外のどちらかに偏るのではなくバランスが大切であるため、自社内のハイパフォーマーを参考にしてモデルケースを作成するとよいでしょう。この創造的業務と創造的業務以外の最適なバランスを他社と比較する必要はありません。企業文化こそが自社にとって最高のコアコンピタンスと考えるならば、自社の代表値を策定し、その代表値に対して発生している社内のバラツキを統制することに競争優位性が隠れているはずです。
競争優位性の3つの構造~企業、人材、業務~
経済の付加価値は“スマイルカーブ”で表現されることがありますが、時代の変遷とともに、経済における「競争優位性」は変化しています。企業、人材、業務の3つの観点から競争優位性について考えてみましょう。
(出典:株式会社エイチ・ピィ・ピィ・ティ)
高度経済成長期の「いかにモノを作って売るのか」という基準から、昨今ではモノを提供する企業経営の品質が問われるようになりました。この変化に伴い、企業の競争優位性も変化を遂げています。高度経済成長期は生産から販売まで、すべてを自社で抱え運用する体制だったのが、現在は生産を外部に委託し、ブルーオーシャンと呼ばれる商品開発やマーケティングに注力するようになってきております。
また、人材の競争優位性に関しては、RPA等のIT技術の進歩により、人が関わる業務はますます高度化し、組織の中でも創造的業務にも関わる「ナレッジワーカー」の存在が注目されています。
そのため、業務の競争優位性に関しては労働集約的な業務から脱却し、創造的業務の重要度がより増していくことでしょう。
生産性を上げる=正しいことに取り組み「効果性」を考える
一般的に、「生産性を上げる=同じ業務をいかに短時間でこなすか」と理解されがちです。しかし、生産性をあげる本来の目的は、イノベーティブな活動を促進させることのはずです。つまり、イノベーティブな活動に時間資源を投入するために、現状の業務から時間資源の余力を回収するのです。現状の業務から時間資源の余力を回収された結果、イノベーティブな活動が推進されるのではありません。
創造的業務をデザインする
どんなテーマであれ改革に取り組む前には、客観的、且つ、論理的に現状を把握することが大切です。ここでは、自分の会社のメンバーがどういったモチベーションで働いているのかを「分かる化」し、どんな業務がどのくらい忙しいのかを把握する「測る化」に取り組んでみましょう。この2つを洗い出すことで、現状、どんな創造的業務にどのような気持ちでどのくらいの時間をかけて取り組んでいるのかが見えてきます。
「分かる化」とは、社員が自分の業務をいかに楽しんでいるのか、という意識面の調査です。例えば、クレーム対応という業務。ある人はこの業務にやりがいや面白さを感じ、ある人はこの仕事をつらいと感じたとします。客観的に見ると同一の仕事でも、人によってその業務にワクワク(もしくは、イライラ)している可能性もあるのです。
「測る化」とは、自分の抱えている業務がいくつあって、創造的業務、及び、創造的業務以外の業務がいくつあるのか、行動面を調査するものです。更に、その業務にどのくらいの時間資源を投入しているかを照らし合わせると、成果に対する取り組み優先順位が見えてきます。
創造的業務の成果が期待以上に表れないときの主な原因の一つは、取り組みたい(もしくは、取り組むべき)創造的業務に対し満足のいく時間を投入できていないことです。このような場合は、創造的業務以外の仕事に時間をとられているため、現状業務の効率性を向上させる必要があります。これらを踏まえた上で、それでも成果が現れない場合にのみ、本人の能力を疑ってみましょう。最初から後者を疑うのは、組織にとっても当事者本人にとっても合理的な解決策にはなりません。
創造的業務をデザインするためには、意識面と行動面に関する現状のあるがままの姿を把握することが第一歩となります。実態を把握した段階で、将来のあるべき姿(更に、その先にあるありたい姿)との乖離を浮き彫りにし、企業ごとに対策を立てていくことがよいでしょう。パスカルが、「人間は考える葦である」と言う言葉を残したように、人間は、知恵を出すことやアイディアを練ることに生きる活力や働く喜びを含めてワクワクさを感じたいものです。
【後編】では、パソナと共同開発した知的生産性を向上させるための具体的なサービス「WIIP(Work Innovation to Intellectual Power)」について紹介します。
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