本文へスキップします。

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

INITIATIVE「自分のキャリアは自分で創る」WEBマガジン

ひと 2016.07.29 南部靖之×竹中平蔵 特別対談「これからの日本の雇用と働き方」<前編>

文:INITIATIVE(イニシアチブ)編集部

おかげさまで、パソナグループは創業40周年を迎えました。創業以来、「社会の問題点を解決する」という不変の企業理念のもと、さまざまな雇用の課題と向き合いながら「人を活かす」仕事に取り組んできたパソナグループ。今回は創業40周年を記念し、パソナグループ代表取締役グループ代表の南部靖之と取締役会長の竹中平蔵が、〝誰もがイキイキと働ける社会の実現〟というグループの原点と、今後のビジョンをじっくりと語り合いました。


パソナグループ 代表取締役グループ代表 南部靖之

変わらない「志」と変化を恐れぬ「挑戦」の姿勢


南部 パソナグループがこれまで40年間存続してこられたのは、働き方や雇用形態による格差のない社会を実現するという創業の志、そして「社会の問題点を解決する」という企業理念に共感をいただくことができたからだと考えています。

私たちはこれまで、エキスパートスタッフ(派遣登録社員)の方々のために何ができるかを常に考え、全力で取り組んできました。企業経営では、どうしても効率を求めがちになりますし、クライアントの要望に応えることに重きが置かれがちです。
しかし、私たちは「すべての基本はエキスパートスタッフである」という立場を徹底して守ることで、結果としてクライアントの皆様への質の高いサービス提供に努めてきました。それが40年間、社会に受け入れていただけた理由ではないかと思っています。

竹中
 長きにわたってパソナグループを近くで見てきましたが、企業理念である「社会の問題点を解決する」ことを目指して、事業に愚直に取り組んでいく姿勢はまったくぶれていないですし、変わることのない原点だと思います。そしてもう一つ、「起業家精神」がパソナグループの強い個性ではないかと感じています。

南部 企業として〝夢のある仕事にチャレンジできる風土〞を守り続けてきたということかもしれません。そのためには、トップに立つ人間の考え方が重要です。

トップやリーダーになると、ほとんどの人は3つのことを考えます、一つ目は「コアビジネスへの集約」、二つ目に「選択と集中」、三つ目に「堅実経営」です。これは経営者がよく使う言葉ですが、一方で創業者はあまり好んで使わない言葉かもしれません。確かに、コアビジネスに特化し、選択と集中を進めていく方が合理的でしょう。
しかし、あえて新たな道を切り拓き、未来の可能性に人やアイデア、お金を投資していかなければ、夢を摘んでしまうことになる。歴史を見ても、この3つの言葉を使い始めた多くの企業は滅んでいるのではないでしょうか。

竹中 最初から刺激的な視点ですね(笑)。しかし、経済学を学んできた者にとっては腑に落ちる意見です。

シュンペーターという20世紀を代表する経済学者が「資本主義はその成功の故に失敗する」という名言を残しているのですが、今代表が話されたことは、まさに彼の考え方そのものです。創業して間もない時期はダイナミズムに溢れていても、成功すると組織は肥大化・官僚化し、当初の精神を忘れてしまう。やがてセクショナリズムに陥って、クリエイティビティがなくなり、失敗する―。

パソナグループが40年間存続してこられたのは、「社会の問題点を解決する」という創業の精神を失わなかったためであり、同時に必要な変化を恐れなかったためだと私は思っています。絶対変わらないものと、アグレッシブに変えていくものが、非常に明確だったからではないでしょうか。

南部 自分たちでは気がついていませんでしたが、確かにそうかもしれませんね。

竹中 絶対変わらないものは、「社会の問題点を解決する」という姿勢。これを表面的に掲げる会社は数多くありますが、パソナグループは本当に実行している。それは、代表をはじめ経営層が、「エキスパートスタッフの方々のことを第一に考えよう」と常日頃言い続けていることが如実に証明しています。そして同時に、毎年何かしらエポックメーキングなことに取り組んでいるという事実も大切です。

南部
 確かに、パソナグループでは、在宅ワークやワークシェアリングに1980年代から取り組み、1991年には日本初の企業所内保育所の運営・代行を始めました。また、大企業のリストラが増加したバブル崩壊後は、人材の流動化を提唱したり、2003年からは農業インターンシップを開始するなど、毎年のように新たな取り組みにチャレンジしてきました。

竹中 東京芸術大学をつくった岡倉天心が「変化こそが唯一の永遠である」という言葉を残しています。そもそも「永遠であるもの」などなく、何か一つ挙げるとすれば、それは「変化する」ことだと。

南部 なるほど。相反するように見えるが、変化していくことは、結局は永遠につながると。素晴らしい言葉ですね。


パソナグループ 取締役会長 竹中平蔵

多様な個性の共鳴が組織を強くする


竹中 昨今、ダイバーシティの重要性が叫ばれるようになりましたが、パソナグループは創業のきっかけ自体がダイバーシティの実現でしたね。

南部 そうですね。起業当時はまだまだ男性社会でしたが、私は年齢・男女にかかわらず採用し、登用してきました。なぜなら、組織というのは多種多様な個性や経験を合わせることによって強くなると考えていたからです。

例えば、お茶に〝三煎〞という味わい方があります。まず、茶葉に湯冷ましをかけて「甘さ」を味わう。その次にぬるま湯を注ぎ「渋味」を味わう。そして最後に熱湯を注ぎ「苦み」を味わう。こうしてお茶の深みを堪能するのです。
企業も同じように、若い方々の前向きさ、発想力も必要ですし、中堅クラスの方々の渋い味わいも必要です。そして経験豊富な方々の苦みもやはり必要なのです。あらゆる年代のさまざまな経験を持つ人がいて、企業はさらに強くなり、数多くのアイデアが生まれるのだと思います。

竹中 そうした多様な人がいる組織を動かしていくためには、縦横なコミュニケーションが必要ですが、その実践は実に難しいものですね。

ある専門家から聞いたのですが、組織には「小さなエモーショナルトーク」がとても大切だそうです。例えば、晴れていて気持ちが良い日に、「その服、今日の清々しい天気にぴったりですね」といった一言。仕事とは一見関係なさそうですが、組織を率いるためには実はこの一言がとても重要で、そこから信頼関係が生まれる。考えが全然違う人と敵対せずに思いをぶつけあえる土壌を築くためには、この小さなエモーショナルトークがすごく役に立つそうです。

南部 確かに、経営など一つのものを成し遂げるためには、理論だけでなく感性でお互いを理解し合うということが必要かもしれません。役職や立場に関係なく胸襟を開いた議論をするためにも、曖昧な部分はすごく重要で、関係性のクッションになっていく。これは生き方にも通じる考え方ですね。

竹中 松下幸之助は「人間は心に縁側を持て」と言っています。縁側というのは、外か内かわからないところです。植木職人さんが腰を下ろして一服しているところに、大店の旦那さんがやってきて「調子はどうだい?」と声をかける。つまり、縁側があるから植木屋さんと旦那が話をすることができた。

南部 それはわかりやすいですね。心の中に、いろいろなものを受け入れるスペースがあれば、コミュニケーションの可能性は大きく広がる。曖昧さ=「心の縁側」は、組織を動かすうえでもとても大切なことではないでしょうか。

【後編に続く】

あわせて読みたい

新着記事

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加