文:INITIATIVE(イニシアチブ)編集部
パソナは2016年4月より、石川県への移住やUIターン就職・転職の受け付け、県内企業の求人を紹介する『いしかわ移住UIターン相談センター』の運営業務を、石川県から受託しています。4月23日、センターの開所を記念して、メディアや都市論に詳しい石川県出身のライター 速水健朗氏と、就活や雇用問題に詳しく、4月からは「いしかわUIターン応援団長」にも就任した千葉商科大学 国際教養学部 専任講師の常見陽平氏を招き、トークイベント『いま、地方に住む、働くということ』をパソナグループ本部で開催しました。 |
歴史あるバーとCDショップが残る街、金沢
常見:昨年、石川県庁から地方企業の採用ノウハウに関するセミナーの依頼を受けたことがきっかけで、この度、「いしかわUIターン応援団長」に就任しました。
今回のイベントでは、石川県出身で、都市や地方、消費論にも詳しい速水さんにぜひご参加頂きたいと思い、ラブコールを送りました。
よろしくお願いします。
速水:僕は石川県出身ではあるのですが、幼少期にしか住んでいないので、ほとんど記憶はありません。ただ、母の実家は金沢なので、子供の頃、夏休みはいつも石川県で過ごしていました。仕事で地方都市に行くことも多く、金沢はよく訪れます。
金沢は、日本の地方都市の中でも変わっている街です。知り合いのライターが、こんなにレコード店が残っている街はほかにないと驚いたんですけど、いまどきの街の変化を語る上で、レコード屋、CDショップがあるかどうかは重要だと思うんですよ。常見さんは、CDを買うときはどうしていますか?
常見:家の近所にCDショップはないですね。Amazonとか、iTunesとか……、区立図書館で借りたりとか。
速水:そうですよね。大型店に吸収されたりして、町のCD屋さんやレンタルショップは減っています。そうしたなかで、金沢は実はそれが残っている街なんです。僕の金沢の印象は、いいバーの多い街。実際に、30年、40年続いているバーが残っています。ほかの地方都市に比べても数が多い。変化が激しい世の中で、30年残っているバーなんて、超貴重ですよ。
これがなぜかというと、「ガラパゴス」だからですよ。
常見:なるほど!
速水:2015年に北陸新幹線が金沢まで開業しました。優良企業が進出するなど東京と繋がりはじめると、人の往来が増えてプラスにはなるのですが、「ガラパゴス」は崩れていくかもしれませんね。
交通と都市の関係は密接です。例えば、昨今注目されているオレゴン州ポートランドなんかは、半世紀前に州間高速道路を通さなかったことが、今になって大きな意味を持ち、独自の公共交通機関の発達、郊外化を避ける街づくりで都心文化を獲得できている。そうした点では、新幹線の開通が金沢にとってプラスになるかどうかは分かりませんよね。
移住政策は誰に向けたものか?
速水:「東京どこに住む? 住所格差と人生格差 」(朝日新書)という本を出版したのですが、それは都市の集積と移住の話なんです。何を基準にして人は引っ越すのか、という話。
戦後から2000年くらいまでは、ひとつのルールに沿って人は住む場所を決めていたといって言い。それは、郊外に新しい住環境を開発して、そこに住むというルールです。つまりは、郊外に住むことが新しい暮らしだった。都市に集中している人口を地方に分散させ、均等ある国土の発展を目指すというのが田中角栄に代表される戦後の基本的な国土計画でした。しかし2000年代に入ってそのルールは終わります。工場三法の廃止などの規制緩和、容積率の緩和によるタワーマンションの登場などによって、それまで東京の周縁部に住んでいた人たちが、都市の中心部に集積するようになりました。
しかし、今はまた政策がブレてきています。いわゆる「増田レポート」(※)でも、地方経済をけん引する都市が必要といわれており、これからは中規模の都市を地方につくっていかなければいけないのに、いまは全ての自治体を生き残らせるためのばら撒き政策が行われています。そして、各自治体がそれぞれバラバラに移住者増加に向けた誘致政策を行っています。人口を地方に分散させることと、都市の中心部に集積させることは、本来全く異なることです。
※「増田レポート」とは
2014年5月に日本創成会議が発表した「成長を続ける21世紀のために『ストップ少子化・地方元気戦略』」
常見:政策を考える上で重要なのは「それって何にきくの?」という問いです。
ブロガーとして有名なイケダハヤトさんが高知に移住しましたが、そうした生き方は少し特殊なケースです。『Pen』のようなおしゃれな雑誌が地方への移住特集を組んだとしても、よく見るとクリエイターたちが中心です。全ての人には当てはまらないのではないかと思います。
速水:一番多く移住が期待できる層は20~30代、働き盛り世代、または子育て世代だと思います。「東京で働くのは忙しすぎるので、地方に移住して子育てしたい」「収入が多少減っても家賃は安いし何とかなる」と考えている方々です。移住者を増やす政策を考える上での主な対象は、その層になってくるのではないでしょうか。そのために何を提供すべきか、具体的な対象から遡って政策を考えていくしかないですよね。
常見:移住政策を考える際、何でもかんでも一緒くたにしてしまう傾向があります。例えば、石川県の中でも、金沢とそれ以外では街の特性が違うじゃないですか。地域によっても異なる中で、どのような視点なら移住者の心に刺さるのか、「移住の物語」の研究が必要ですよね。
速水:そうですよね。例えば石川県でも能登は農業中心のエリアで、加賀はものづくりで職人のエリア。農業や職人の世界って、何千人、何百人という規模の人数は移住しないじゃないですか。それは先ほど出た『Pen』的な移住例で、マジョリティではない。子育て世代が生活リズムを変えるために移住したいと思っても、別に農業がやりたいわけではないしなぁ…と。
常見:産業構造がカギですよね。いわゆる「東京のサラリーマン」がやっている仕事が、地方にあるのかということ。「Pen特集型人材」だけではなく。
速水:「ソトコト系人材」でもいいかもしれませんね。『ソトコト』はよく地方移住を勧めているけど、その価値観は、ロハス的とでもいうべき路線で、クリエイター型と近いけど、もう少し地に根付いているのかな。
常見:面白い!「ソトコト系」!そういう意味で、もっと普通の会社に注目しないといけないですよね。
優良企業の回りに“手に職”人材が集まる
常見:何でも解決する魔法の政策などはありませんが、移住政策で分かりやすい問題点は、地方企業のUIターン求人の情報がターゲット層に届いていないということです。
石川県には、優良企業が多数あります。建設機械・重機械のメーカーのコマツ(小松製作所)、コンピュータ周辺機器メーカーのアイ・オー・データ機器、ほかにも中堅・中小企業で凄い技術を持っている優れたものづくり企業が非常に多いのですが、見渡して気付くのはほとんどBtoB企業なんですよね。
採用活動において、求職者にBtoB企業の魅力を伝えるのって、もともと難易度が高いんです。大学のキャリアセンターにおける進路指導の課題は、昔も今もBtoB企業の魅力を伝えることです。
速水:良い企業があるから移住するかというとそうではないですよね。ただし、いい企業がある街には、その周辺にサービス業が付いてくるというケースはあります。「年収は『住むところ』で決まる」(プレジデント社)という本がありますが、まさしく成長産業を抱える街には、近くにレストランなどの飲食業や、美容室やヨガ教室といったサービス業が移転してくるという話なんです。手に職を持つ人々は、実は移動可能な移住の候補者です。移住政策はその視点を持たないといけません。
でも、現状様々な自治体が行っている補助金のばら撒きで移住者を集める政策は失敗すると思います。どの自治体も、個別にばらばらの移住支援をやって、金のばらまき合戦をやっている。これは実際には、人口分散を進めようとしているようにしかみえない。実際にうまく機能するのは、人口集積を伴うものに限られる。その視点が必要です。
仕事が先か、都市の魅力が先か
速水:移住と言っても、日本人はもともとあまり引越しをしないですよね。日本人の平均生涯引越し回数は4.5回くらいだそうです。一方、アメリカでは約15回以上で、都市間の横移動が多い。
常見:日本だと都市間の横移動、例えば鳥取から山形への移住者なんてまずいませんよね。いたら話を聞いてみたいレベルですよ。
速水:銀行員とか大企業の社員は人事異動での転勤で都市間の横移動が多いですが、それ以外のケースは少ないんじゃないですか。ですから今後は、これまであまりいなかった“住みたい場所を主体的に選ぶ人たち”を創り出さないといけない。これはとても難しいですよね。その前提として、住みたいと思ってもらえる場所を創り出さないといけないですし。
常見:日本では地元に帰るUターン型ではなく、Iターン型の移住は、これからのチャレンジですからね。
速水:移住のスタイルとして、アメリカでは仕事を見つけるより、引っ越すのが先だそうです。それは統計的にも出ていて、多くのアメリカ人は、人生において仕事よりも住む都市の方が重要だと思っているそうです。
またアメリカでは、生まれ育った場所から動かない人たちと、引越しを繰り返す人のどちらが経済的な成功確率が高いかというと、引越しをする人だという統計もあります。「仕事がないから引っ越せない」ではなく、成功する人は仕事のことを考えずに引っ越しているということです。
これって結構重要なことで、なぜそこに住むのかは、一言で言えば都市の魅力しかないということです。たまたま旅行で行った都市が気に入って、住みはじめる例とかもありますよね。私も今は東京と千葉で2拠点生活をしています。毎年海水浴で行っていた場所が気に入ってしまい、仕事場を作りました。
移住者を増やすために「まず雇用を創れ」となって企業誘致が行われるのですが、それ以前に、住む場所として魅力的なのかを考える必要があります。(つづく)
【後編はこちら】
一覧ページへ
あわせて読みたい